『どこでも、誰でも、使えるトイレ』が当たり前の世の中にしよう!

■提 案1:多くの人たちに、誰でも使えるトイレの必要性を伝えよう!

 健常者といわれる人たちは、外出するときに「トイレがあるかどうかを心配することは、海や山などという日常生活と離れたところへ出かけない限りないだろう。しかし、障害を持つ人たちは、日常的な外出時にいつも「使用できるトイレがあるか否かjを心配している。ハートビル法(高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進こ関する法律)や愛知県人にやさしい街づくり条例などが制定され8年たつ現在でも、まだまだ外出先に使用できるトイレがないため、外出をあきらめている人がいる現状である。

 WHO(世界保健機構)の新たな「障害の定義」は、Impairmenl(機能障害)⇔Activities(活動)⇔Participation(参加)と、「障害」のとらえ方が相互作用的なモデルヘと変わっている。Activities(活動性)を規定する要因として、個人内因子と環境内因子の両方が位置付けられており、環境内因子とはバリアフリー(物理的、心理的、社会的なものを含む)や支援体制等を表しているのだが、「使用できるトイレがない(環境が整っていない)」ために「外出できない」「外出の機会が減る」(参加できない)という作用は、まさに「障害」を生み出しているといえる。歩けない等の機能障害は、車いす等の道具の使用である程度クリアーできる今、「使えるトイレがない」ことが大きな障害なのである。

 ただ、この状況にもかかわらず、多くの障害を持つ人たちは、大変な苦労や準備をして外出している。事前に病院へ行ってバルーンカテーテル(*1)を留置するとか、おむつをするとか、前日から水分を控えるとか、薬で調節する人までいる。

 この現状を、多くの人たちに知ってもらう必要がある。そして、一緒に誰でも使えるトイレを増やしていきたい。ただ、今後障害を持つ人をとりまく様々なバリアーが解消されたとしても、それは、障害をもつ人たちがやっと、多くの健常者といわれる人たちと同じように気軽に、当たり前に外出できるようになると言う、ごくごく当たり前の出発地点にやっとたどり着くにすぎないということを認識して欲しい。

*1)主に泌尿器に使用される、先端にバルーンの付いたもので、カテーテルを体腔に保持するために使われる。

■提 案2:トイレはすべて、どこでも、誰でも使用できるトイレにしよう

 一部の人(大多数だが)しか使えないトイレを作るのはおかしい。歩行に障害がなく、階段も上がれる人たちはどんなトイレでも工夫して使用できるが、障害を持つ人や高齢者の多くは、トイレが使えないために外出時に相当の準備や覚悟を必要としている。どちらを基準に作るべきかは、あきらかである。ただ、なかなかそれができない社会、労働者を基準とした社会がそれを邪魔している。将来はどんな人も年をとり、思うように動きにくくなる、その時にどう人生を過ごしたいかもっとみんな考えるべきだと思う。外出の機会は、たくさんの人、物との出会いで、毎日の生活にとてもよい刺激となる。外出のキーポイントとなるトイレは、誰でも、どこでも使えるトイレにしよう!

〜当面の取り組みとしての提案〜

大規模な建物のトイレの設置について

提 案3:各階に2ヶ所以上のレイアウトの異なる障害者向きトイレを設置しよう!

・高層の大きい建物であっても、「障害者向きトイレは1階に1ヶ所のみ設置」というところがまだまだ多い。健常者に比べて移動という点てハンディがあり、衣類の着脱などにも時間を必要とし、また、尿意を感じてから我慢することが難しい状況がある障害を持つ人にとって、上下移動をして障害者向きトイレのある階へ行くことはとても大変なことである。特に、多くの人がエレベータを利用する建物ではなかなか乗ることができずに苦労をしている現状があり、各階の設置を提案する。

・障害を持つ人のトイレの所要時間は、第2章のアンケートからもわかるように、4〜6分、7〜10分という人が圧倒的に多い。中には、30分以上かかるという回答もあり、健常者に比べると、トイレを独占する時間が長いことがわかる。障害によっては尿意を我慢する事が困難な人も多くいるので、人が多く出入りする建物の障害者向きトイレは、各階2ケ所以上の設置が必要である。

・建物内の複数設置の障害者向きトイレのレイアウトに当たっては、右半身がまひしている人と左半身がまひしている人では利き手が違うように、障害の状況により使い勝手が異なる部分も多々あるので、後述の障害者向きトイレの詳細提案のように、複数パターンのトイレの設置をすると、より便利に使用することができる。

小規模な建物のトイレについて

■提 案4:洗面とトイレスペースを一体化し、誰でも使用できる工夫をしよう

 一般トイレがスペースの関係で1つないし、2つしかない小規模の建物、および店舗等の場合、洗面スペースとトイレスペースを分けずに一体化することによって、車いすで入れる広さを確保できる場合がある。間口を8 0cm以上確保し、洋式便器に手すりを設ければ、一般の人、高齢者、障害者、誰もが共用できるトイレになる。特に誰もが気軽に食べたり飲んだりする飲食店では、上記のような工夫をぜひお願いしたい。

現状例 提案例

一般トイレの設置方針について

■提 案5:間口を8 0cm以上にし、手すりを設置しよう。

 障害の状況は多様で、一般トイレを少し改善することで利用できる人も多くいる。杖を利用している人は、手すりがあれば一般トイレを使える人も多く、また、間口を80m以上確保することにより、車いすのまま便器近くまで近づくことができるので、単独、または、介助者がいれば利用できることがある。最近、飲食店などのトイレは洋式が増えているが、間口が狭く手すりがないために利用できないことがよくあり、とても残念に思う。ぜひ、改善して欲しい。

■提 案6:トイレの順番待ちは入口の手前で一列に並ぶ欧米方式にして、トイレの扉を外開きにしよう!

 トイレの扉は、開けたときに人にぶつかってしまう危険性から内開きとなっているようだが、内開きでは、中のスペースが狭く、たとえ車いすで中に入れても扉を閉めることができない。個室の扉を外開きにしてもぶつからないためには、トイレの個室の扉前では並ばず、入り目手前で一列に並ぶようにすべきである。

■提 案7:レイアウトを統一しよう!

 視覚障害を持つ人が一人で初めてのトイレを利用するときは、便器や水洗レバーの位置などを手探りして設備の位置を確認する。歩行可能な視覚障害者の多くは一般トイレを利用している。数も少なく、広くてレイアウトの異なる障害者向きトイレで、便器などの位置を手探りで確認するより、一般トイレの限られたスペースで確認する方が安全で簡単にできるようである。そのため、一般トイレのレイアウトは統一されていることが望ましい。

障害者向きトイレについて

■提 案8:交番、警察署、消防署、コンピニ、ガソリンスタンドに、障害者向きトイレを作ろう!

 トイレは24時間いつでも安心して使用できるべきである。現在利用できる障害者向きトイレは公共機関内に設置されていることが多いため、特に夜は使用できるトイレがぐんと減ってしまう。人の活動は昼だけではないことは言うまでもない。そこで、いつでも安心して使用できるトイレの設置場所として、上記の5ケ所を提案する。

■提 案9:障害者向きトイレを一般トイレと全く違った場所に設ける必要はなく、それぞれの利用者が使用しやすい出入り口を考えて配置しよう!

 第2章のアンケートでは、「(障害者向きトイレが)離れた場所に設置されていると特別なものというイメージがありいやだ」「離れた人通りの少ない所は何かあったときにとても不安」と言う回答があった。また、一般トイレに隣接してもうけることで、目的外の使用を防ぐという利点もある。一般トイレと障害者向きトイレをはじめから一セットと認識し、同じ一角に設置しよう。

■提 案1 0 : どこにでも障害者向きトイレを2ケ所は設置するべきである。

 「一般トイレと同じように男女別にすべきだ」という、自分たちを差別しないで欲しいという意識から「男女別であった方がいい」と多くの人が思っている。一方で、配偶者や子どもなど、異性に介助を依頼している人たちは、障害者向きトイレの設置場所によっては、異性が入りにくいことがあるので、男女別は困ると思っている。本会としては、スペースが許せば2ケ所設置し、ぜひ男女別にすべきであると考える。ただその際、異性介助も充分あり得ることも考え、気兼ねなく出入りできる場所を検討する必要がある。ただ、まだまだ障害者向きトイレの数が少ない今、まずそこに使えるトイレがひとつでもあるということが障害を持つ人たちの切実な願いではある。

■提 案11:内側から施錠できない障害者向きトイレは作るべきではない。

 緊急時を配慮しているのだと思われるが、これに対する障害を持つ人たちの反応は、「障害を持つ私たちにはプライバシーはないのか?」「錠はあってあたりまえ」「ふつうのトイレと同じでいい」など、現状への怒りにも似た不満の反応である。もちろん、障害を持つ人自身も、緊急時の不安はあるが、緊急呼び出しの設置や緊急時は外からあけられる形式の錠をつけるなど工夫をすることで解決することであり、本当に不安な人は錠があっても施錠しないだろう。内側から施錠できない障害者向きトイレは作るべきではない。

■提 案1 2 :街によくある外から施錠された障害者向きトイレは、安易に施錠せず、設置場所、管理体制に目を向け、工夫するべきである。また、マナーの悪い人たちとは辛抱強く戦うべきである。

 多くの障害を持つ人が、「すぐ利用できるように施錠しないで欲しい」と思っている。外から施錠してしまう理由は、目的外の使用があるためと聞く。本会としては、障害者向きトイレは一般トイレと離れた場所に設置されていることが多く、管理上目がとどかず、目的以外に使用されることがあるのではないかと考える。設計時に一般トイレと同じぐらいあたりまえの物としてとらえ、一般トイレの近くや、人の目が届くところを意識して設置すれば、かなりのトイレが施錠する必要がなくなると思われる。広い公園の中のトイレは、確かに管理が難しいだろう。いざ使用しようとしたときに、物がたくさん入っていたり、いたずらに汚されていたり、ホームレスの人が寝ていても困る。でも、錠をかけることは簡単だが、障害を持つ人にとって非常に困ることも事実である。錠をかける前に、目的外使用の人たちへの啓発が必要である。

■提 案13 : レイアウトは、優先順位を理解し、広さに応じて必要な設備を設置しよう!

 狭いスペースに多くの機能を持だせようとするあまり、必要な操作が困難になり、使いにくいトイレになるケースも少なくない。優先順位を理解して設置する必要がある。

優先順位
 ・最低限必要な設備     車いすで入れる間口と広さ・洋式便器・手すり・手洗い・ゴミ箱
 ・あればとても便利な設備  壁面手洗い・大きめのゴミ箱・簡易ベッド・汚物流し など

■提 案1 4 :設備のレイアウトの決定は、障害を持つアドバイザーの意見を聞こう!

 施工者が実際に車いすに乗り設備の配置を決めていく方法もあるが、障害も様々でありその状況を施工者が理解することは困難であると考える。例えば、施工者が車いすから手を伸ばして届く範囲と、上肢障害があり腕が十分上がらない障害を持つ人の届く範囲は違う。すべてのトイレの広さが同じであれば、設備のレイアウトも決まってくるが、多くのトイレは限られたスペースに設置され、その場合のレイアウトについては、現場での臨機応変の対応となる。しかし、このレイアウト次第で、障害者向きトイレの善し悪しが決まるといえる。ぜひ、障害を持つアドバイザー(*2)の参加の場を設けて欲しい。

(*2)自分以外の障害についても把握し、総合的な意見を言える人

■提 案15 :設置備品は、デザイン性も必要だが、使いやすさを優先に考えよう!

 トイレ内の備品の形や大きさは、障害を持つ人のトイレの自立炭に大きく関わってくる。例えば、ボタンの大きさや形状で、自分で操作することができたりできなかったりすることがある。また、便器の形状によっても車いすがらの移乗が困難となる場合もある。また、視力が低下した高齢者や弱視者にとっては配色は大きな意味をもつ。洗浄スイッチと非常呼び出しの色や形の区別が難しくて押し間違えてしまい、警備の人が飛んできたなどという例は多い。使いやすさと識別のしやすさを重視したデザインが必要である。ぜひ、障害を持つアドバイザーの参加の場を設けて欲しい。

障害者向きトイレの情報提供について

■提 案1 7 :建物内の案内、パンフレットやホームページなどに障害者向きトイレの情報を入れよう!

 出かける前に、障害者向きトイレの設置場所や、設置がない場合は最寄りの障害者向きトイレの場所の情報を得られれば、安心して出かけることができる。また、建物内各所の案内に障害者向きトイレの場所を明記すれば、初めて入った建物でも、短時間でトイレヘの移動が可能になる。
 ぜひ、検討して欲しい。

■提 案18 :障害者向きトイレマップを作ろう!

 排尿、排便をあまり我慢できない人や、トイレの心配があり外出をひかえている人にとって、街のどこに障害者向きトイレがあるかという情報は重要である。今回のアンケートでも、「外出をあきらめた」という理由の上位に、「使えるトイレがどこにあるかわからない」という答えがあがっている。多くの障害を持つ人がもっと気軽に外出するためにも、情報は不可欠である。デジカメ付き携帯電話や使い捨てカメラ、デジタルカメラなどが身近になっている今、多くの障害を持つ人が街で利用した障害者向きトイレの写真を意識して記録し、それを1ケ所に集めれば、障害者向きトイレマップは夢ではない。本会はそんな役割も担っていきたいと考えている。


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