日本福祉のまちづくり学会 13回全国大会in刈谷
シンポジウム1(2010.8.29

T.あいちトイレ研究会とは

1.設立経緯、構成メンバー

“人にやさしい街づくり”が叫ばれるようになって久しい昨今であるが、障害のある方や高齢の方にとっては、まだまだ不便さが改善しきれていない現状があると考えられる。とりわけ、障害のある方たちが外出する際「障害者向きトイレ」(本研究会ではこの呼称で統一します)が目的地にあるか否かは大きな問題といえる。

また、障害者向きトイレの設置数は徐々に増えてきてはいるものの、使いにくいものが新設されることも多くあるのが現状である。愛知県人にやさしい街づくり条例および名古屋市福祉都市整備指針は充分機能しているのだろうか、使いやすい障害者向きトイレを増やしていくにはどうしたらいいのか等の疑問の中で「あいちトイレ研究会」が発足した。

 研究会には、障害のある当事者を始め福祉関係者、建築関係者、医療関係者、大学教授、学生等が集まり、誰にとってもある程度使いやすい障害者向きトイレとはどのようなものか、どのようなトイレが要求されているかを調査研究している。

 

2.活動内容

 1)アンケート調査、分析、現状把握

 2)建設関係者、トイレ設備機器メーカー、行政などへの調査報告書の配布

 3)愛知県街づくり条例、トイレ設備機器メーカーなどへの提案

 4)障害者向きトイレの調査とマップ作り

 5)新設の障害者向きトイレへのアドバイス


 

U.アンケート調査概要

1.平成14年度調査について

1)目的

 障害者向きトイレの設置が増えてきていたが使いにくい場合も多々見受けられていた為、実際に使用している当事者はどう感じているか、何を望んでいるか等の意見収集を目的とした。

2)配布・返信方法

・郵送・手渡しで配布。切手付き返信用封筒同封あり。

・質問項目数、18

3)回収・分析結果

・回答数265部。

・報告書「障害者向きトイレ読本 〜誰でも、いつでも、どこにでも「使えるトイレ」の普及をめざして〜(全125頁)」を作成。愛知県、名古屋市の建築課、福祉課へ持参すると共に、トイレ設備機器メーカーや希望者に配布。

4)報告書内容

@18提案とトイレ詳細提案

Aアンケート分析

B回答で得た「使いやすかったトイレ」「使いにくかったトイレ」の現地調査と改善提案 等

  詳細は、あいちトイレ研究会HP参照 

2.平成21年度調査について

1)目的

当事者より「障害者向きトイレの使い勝手」、「必要な手すりとその使用方法」、「マルチトイレについての意見」を収集することを主な目的とした。

2)配布・返信方法

・郵送・メール・手渡しで配布。郵送分について切手付き返信用封筒同封なし。

・ホームページからも回答可能とする。

・質問項目数:19

3)回答者(総数132名)の属性

性別

年齢 

 

 

障害の種類

外出頻度

 

 


V.平成21年度調査分析結果


1.障害者向きトイレの使い勝手

◆設問.最近(45年以内)新しくなった障害者向きトイレの使い勝手についてどう思いますか。

◆設問.使いにくいと思ったことがある箇所に○をつけてその理由を教えてください。

 

 

 

  

2.必要な手すりとその使用方法

片側のみの手すり設置や、両側に設置されているものの壁面がL型手すりではないタイプの設置などがあるため、実際のニーズを聞いてみた。

1)必要な手すり

 ◆設問.使用する手すりとその使い方について教えてください。

 

結果

円グラフのように、障害者向きトイレのみ使用する人は、『壁面L型手すりと反対側の横手すり』を必要とする人が
64%と圧倒的に多いという現状が明らかになった。 

 

2)手すりの使用方法


@「壁面
L型手すりと反対側の横手すりを使う64

車いすから立ち上がって移乗する人は、立ち上がり動作と、たったまま衣類を着脱する時にL型手すりを使用し、座る動作や使用中に身体を支えるために両側の手すりを必要としている。

一方、立ち上がらず車いすから便器へ平行移乗する人は、移乗時に使用する人もいるが、多くが衣類の着脱時に両方の手すりを必要としている。また、両手すりを座った状態で身体を支えるために利用している人も多い。今回は、壁面L型手すりの縦横をどう使い分けているかはわらなかった。


A「壁面の反対側にある手すりのみ」24%

立ち上がりと衣類を着脱する動作時に使用している。


Bその他 12%

利き手側に手すりがないと使用できないという回答が多かった。

 

3.マルチトイレについて

1)平成14年度と21年度の比較

◆設問.マルチトイレが増えていますが、それについてどう思いますか。

その理由についても教えてください。


21年度】

全体・・・「専用であったほうがいい(以下、専用)」→29%

「色々な人が利用できた方がいい(以下、色々な人)」→33%
障害者向きトイレのみ使用の人は・・・「専用」→33%、「色々な人」→27%

14年度】

全体・・・「専用であったほうがいい」→21% 、「色々な人」→62%

障害者向きトイレのみ使用の人は・・・「専用」→22%、「色々な人」→60%
 


障害者向きトイレのみ使用する人のデータをグラフで表すと                

平成21年度

平成14年度

 

 

 

≪平成21年度アンケートより≫

・「専用」とする主な理由
      「乳幼児の使用、家族何人かでの使用」「着替え・化粧直し・喫煙・休憩での使用」

→長く待たなければならない(我慢しきれない)
     「対象者が増えすぎてそこしか使用出来ない人が優先的に使用出来ない」

    「多目的として設置するならもう少し数を増やすべき」

・「色々な人」の主な理由
      「ユーザーが多い方が多く設置される」

「マルチトイレが複数あれば色々な人が使えていい」

・「その他」の意見
      「数が多くあれば専用でなくていいが少なければ専用がいい」
      「優先であってほしい」
      「幼児おむつ換えシートやべビーキーパーなどは一般トイレにも完備する」



2)平成21年度、「色々な人が利用できたほうがいい」が約30%に半減した理由とは?

平成14年度調査時、60%以上が「色々な人」としていた理由に挙げられたのが

「使いやすい人は使えばいい」

「優先であれば特別にすることはない」

「お互いに理解が深まる」

「多くの人が使用すると現状よりもっと使えるトイレが増える」

というものであった。 

  しかし、7年経って見えてきたものは・・・

      ↓

平成21年度アンケートより

◆設問.障害者、高齢者、幼児連れが使用できるマルチトイレが増えていますが、使用中でなかなか使えず困ったことはありますか。

                            

左のグラフのように「よくある」「たまにある」との回答が72%に上る。なかなか使えず困っている現状がうかがえる。

 

3)要因として考えられるもの

 @対象者の多様化・トイレ内設備の多重化

   ベビーおむつ替えシート、ベビーチェアー、幼児用便器、幼児用小便器、

オストメイト用シンク等

A対象者が拡大したにも関わらず増えない設置数

Bモラル低下の長時間使用

化粧・着替え・洗濯・休憩・喫煙・家族複数名での使用

C「多目的トイレ」「みんなのトイレ」「誰でもお使いください」といった表示

 

4)提案
 

◆一般男女トイレに・・・

ベビーおむつ替えシート

ベビーチェアー

ベビーカーも入れる広めの個室

手すり完備の広めの個室      

オストメイト用シンク付き広めの個室

◆障害者向きトイレに・・・

大人用おむつ替えシート

ベビーチェアー     

広さがある場合オストメイト用シンク


@機能を分散させすみ分けを図る。

A「誰でもお使いください」といったトイレ表示の改善。

B障害者向きトイレの扉に一般トイレの機能を明示する。

    
    ↓


様々な人が、より快適に効率よく利用

 


W.最後に

あいちトイレ研究会としては、前回の調査報告書の提案で下記のように表記していた。

「一般トイレとマルチトイレの機能を明確にするべき。何もかもマルチトイレの中に含まないこと。赤ちゃんのおむつ替え用のベビーシートは一般トイレへ設置し、障害者向きトイレには、大人用の着替えやおむつ替えのための簡易ベッド、(障害のある)親が用を足す際に幼児を座らせておくベビーチェアの設置を提案する。」

この提案は、多くの機能を含んだマルチトイレが新設された場合に生まれるであろう負の現象が予想されたからに他ならない。しかしながら、ここ何年間かで設置されているトイレはまさに懸念した通り‘多機能化’したものであり、更には「誰でも使用可」「みんなのトイレ」と明示するものまで設置されるようになった。果たして、ベビーカー・幼児連れが列をなす状況が生まれ、本来の目的とは逸脱した使用の仕方をする人、「‘誰でも使って下さい’と書いてあるんだからいいと思って使う」と堂々と言う何の障害もない人(いわゆる健常者)をも作ってしまった。

 無論、障害のある人に限らず、幼児連れ、妊婦、負傷者など多くの人にとって使いやすいトイレを整備するべきは当然である。赤ちゃん・幼児連れの方の意見データを持ち合わせていないのが残念ではあるが、その方々もまた多かれ少なかれ同じように困った経験はあるのではないだろうか。

 このような状況を少しでも改善すべく、本会は今後さらに、行政、建設関係者、機器メーカーなどとの連携を深め、上記の3つの提案を推進していきたいと考えている。



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